近年、多くの食品ブランドが自社オンラインストアを通じて消費者に直接販売する「D2C(Direct to Consumer)」モデルに取り組んでいます。一方で、事業を継続的に成長させるためには、スーパーマーケットや専門店、飲食店などへの「卸売り(B2B)」販路の開拓も重要なテーマになりつつあります。
しかし、D2Cから卸売りへと販路を広げる際には、取引条件の管理、卸価格の設定、請求や決済のフロー、在庫管理など、これまでとは異なる業務が一気に増えます。限られた人員でネットショップ運営を行っている事業者にとっては、「新しいシステムを増やさず、できるだけ今の運営体制を崩さずに卸売りを始めたい」というニーズも多いのではないでしょうか。
この記事では、Shopifyを活用してD2Cからスタートした食品ブランドが、どのように「Shopify B2B」を使って卸売り販路を拡大していったのか、その具体的な事例を紹介します。専門的なシステム用語や開発知識がなくても理解しやすいよう、設定や運用のポイント、社内体制への影響、実際に感じたメリット・課題などを、できるだけ現場目線でお伝えしていきます。
目次
- D2C中心から販路多角化へと舵を切った背景と課題整理
- 食品ブランドの特徴とB2B展開を見据えた商品設計の見直しポイント
- Shopify B2B導入時に行った設定と業務フローの具体的な変更内容
- 卸先ごとの価格設定と最小ロット管理で収益性を確保する方法
- B2B注文の受注から出荷までをスムーズにする在庫管理と物流の運用工夫
- 既存D2CサイトとB2Bストアを両立させるための運営体制と社内連携
- 導入後の成果指標の振り返りと今後の販路拡大に向けた改善ステップ
- Final Thoughts
D2C中心から販路多角化へと舵を切った背景と課題整理
D2Cで順調に成長していたこの食品ブランドも、ある時点から「広告費は増えているのに、売上の伸びは鈍化している」という壁に直面しました。SNS広告とインフルエンサー施策に依存した集客は、クリック単価の高騰とアルゴリズム変更の影響を大きく受けます。また、冷凍・冷蔵が必要な商品特性上、1件あたりの配送コストが高く、個人向け少量配送では利益率が圧迫されていました。さらに、リピート顧客は一定数いるものの、「新規獲得コスト」>「LTV」になりつつあり、D2C単体での成長に限界が見え始めていたのです。
- 広告依存の集客モデル:CPAの上昇と、成果の読みにくさ
- 物流コストの負荷:小口配送が収益を圧迫
- 市場飽和感:既存フォロワーへの販売だけでは拡大余地が限定的
- 組織リソースの偏り:マーケとCSに人員が集中し、法人対応が後回し
こうした背景から、ブランドは小売店・飲食店・サブスクボックス事業者などとの取引を拡大する方針を固めました。ただし、いきなり卸売りを増やすと「価格体系」「在庫運用」「受発注オペレーション」が破綻しやすくなります。実際に初期フェーズでは、法人からのメール・FAX・電話による注文が混在し、担当者ごとに条件がバラバラになるリスクがありました。そこで、Shopify B2Bを中心にチャネル別のルールと運用フローを整理することを優先課題とし、下記のような整理表を作成したうえで、社内で共通認識を持つところから着手しました。
| チャネル | 主な目的 | 価格・条件 | 運用上のポイント |
|---|---|---|---|
| D2C(一般EC) | ブランド認知・テスト販売 | 定価ベース・キャンペーンあり | レビュー収集とLTV最大化 |
| 卸売り(Shopify B2B) | ボリューム確保・安定出荷 | 掛率・ロット・支払い条件を明確化 | 取引先ごとの価格・条件を一元管理 |
| テスト卸(小規模店舗向け) | 新規エリアの試験展開 | 小ロット・やや高めの掛率 | 販売データを基に条件見直し |
食品ブランドの特徴とB2B展開を見据えた商品設計の見直しポイント
まず押さえたいのは、自社の「らしさ」を崩さずに、取引先が扱いやすい形に整えることです。D2C期に培った世界観やストーリーは、B2Bになってもブランド資産として生き続けますが、棚割りや物流の制約を踏まえて整理し直す必要があります。たとえば、人気フレーバーを中心にSKUを絞り込み、用途別にラインナップを再構成することで、バイヤーが提案しやすい構造になります。加えて、ラベルやパッケージには「保存方法・アレルゲン・JANコード」など小売現場で必要な情報が一目で分かるように設計しておくと、現場での採用ハードルが下がります。
- 最小ロットとケース入数:店舗オペレーションに合わせ、在庫リスクを抑えつつ回転しやすい数量を検討
- 賞味期限設計:製造リードタイムと出荷頻度を踏まえ、B2Bでも十分に販売期間が確保できる設定に見直し
- パッケージ強度:宅配便だけでなく、混載便や倉庫保管を想定した破損しにくい仕様
- 情報設計:ラベルに「ケース単位JAN」「カテゴリー」「陳列提案」など、バイヤー向けの補助情報を追加
| 設計項目 | D2C中心の状態 | B2B展開後の見直し |
|---|---|---|
| SKU構成 | 季節・限定品が多く変動大 | 通年定番を軸に安定供給を優先 |
| 価格設計 | 単品小売価格のみ | ケース価格・卸価格・掛率を明確化 |
| パッケージ | EC映え重視の個装設計 | 輸送・棚割り・陳列を意識した外箱設計 |
| 商品情報 | サイト上の世界観説明が中心 | 原材料・規格・リードタイムなど商談用情報を整備 |
Shopify B2B導入時に行った設定と業務フローの具体的な変更内容
まず最初に取り組んだのは、既存のD2Cストアをそのまま活かしつつ、卸先専用の購入体験を切り分けることでした。具体的には、B2B顧客用に会社情報や担当者情報を必須とする会員登録フォームを追加し、審査後にのみB2B価格が表示されるように設定しました。また、卸先ごとに異なる条件を反映させるため、企業ごとの価格表と注文単位(ケース・ロット)を明確に定義し、それを元に価格表を割り当てる形に整理しました。これにあわせて、一般顧客には見えないB2B専用コレクションを作成し、卸商品とD2C向け商品が混在しないように運用ルールを整えました。
- 会員登録項目の見直し:会社名・部署・請求先住所・希望取引条件を追加
- B2B専用の価格表:取引条件別に複数の価格表を作成・割当
- 商品構成の分離:D2C用と卸用の商品・コレクションを分けて管理
- アクセス制御:B2B顧客のみ卸価格と卸専用コレクションを閲覧可能に設定
| 取引タイプ | 主な設定 | 社内フローの変更点 |
|---|---|---|
| D2C | 通常価格・クーポン運用 | 自動出荷、個人単位のCS対応 |
| 小規模卸 | 卸価格1・ケース単位注文 | 受注後の在庫確認と納期連絡を必須に |
| 大口卸 | 卸価格2・最小発注数量の設定 | 営業承認→出荷チーム連携の2段階チェック |
業務フロー面では、「誰が・いつ・何を確認するか」を明文化し、D2Cとは別の流れを持たせました。新規の卸先からフォーム送信があった際は、まず営業が内容を確認し、取引可否と価格表・支払条件を決定します。その後、Shopify上で「企業」「ロケーション」「価格表」を紐づけて登録し、B2B用アカウント発行完了のメールテンプレートを送信する、という一連のステップをテンプレート化しました。受注後は、
- 営業チーム:受注内容と条件の最終確認、特別条件の有無をチェック
- 在庫・物流:ケース数ベースで在庫引当、リードタイムを算出
- バックオフィス:請求書発行と入金管理を担当(必要に応じてタグで管理)
という役割分担に変更し、Shopifyの注文画面上でタグ・メモ・注文メタフィールドを使って「出荷指示済み」「請求書発行済み」などのステータスを共有することで、社内でスプレッドシートを二重管理しなくても進捗が追えるようにしました。これにより、既存のD2C運営を崩さずに、卸売り特有の条件や確認作業をShopify上の情報と紐づけて一元管理できるようになりました。
卸先ごとの価格設定と最小ロット管理で収益性を確保する方法
食品ブランドの事例では、まず「卸先ごとに利益率がどこまで許容できるか」を紙ではなくShopify上でルール化することから始めました。B2B機能で会社ごとの価格リストを作成し、取引規模やカテゴリに応じて単価を変えています。例えば、地方の小売店には配送コストを踏まえたやや高めの卸価格、量販チェーンにはボリュームを前提にした低めの卸価格を設定し、すべての条件をshopify上で一元管理することで、値下げ交渉の度にスプレッドシートを探す手間をなくしました。
- 新規の小売店:標準卸価格リストを割り当て
- リピートの多い飲食店:上位ボリューム向け価格リストを適用
- EC事業者:オンライン販路との競合を避けるため別価格を設定
また、利益を守るうえで重要なのが、商品ごとの最小ロットとケース単位の設計です。B2B注文にのみ適用される最小注文数量(MOQ)を設定し、単品バラ売りではなく「1ケース=◯袋」単位での注文に統一することで、ピッキングの手間と在庫ロスを抑えています。以下のようなシンプルなルール表をあらかじめ作成し、Shopify B2Bの価格リストと合わせて運用することで、営業担当が誰でも同じ条件を提示できるようになりました。
| 商品 | 標準卸価格 | ケース入数 | 最小ロット(ケース) |
|---|---|---|---|
| クラフトジャム | ¥420 / 本 | 12本 | 2ケース〜 |
| グラノーラ | ¥380 / 袋 | 20袋 | 1ケース〜 |
| 冷凍スープ | ¥280 / パック | 30パック | 2ケース〜 |
最終的には、価格表とロット条件を「営業資料」ではなく「運用ルール」としてShopifyに落とし込むことで、受注のたびに利益計算をしなくても、自然と収益性が担保される仕組みになりました。値引きの相談があっても、「価格はこのリスト内で段階的に設定」「最小ロットはこの範囲で調整」というガイドラインに沿って判断できるため、担当者ごとのバラつきも抑えられます。結果として、販路を増やしながらも、D2C時代と同等の粗利率を維持したまま卸売比率を高めることが可能になりました。
B2B注文の受注から出荷までをスムーズにする在庫管理と物流の運用工夫
食品ブランドのB2Bでは、まず「どの商品をどれだけ、どの得意先向けに確保しておくか」を明確にすることが重要です。Shopify B2Bの価格表や取引先別カタログを使い分けながら、卸専用の在庫枠を持たせる運用に切り替えると、D2Cと在庫を取り合うリスクを抑えられます。とくに賞味期限のある商品は、ロットごとの残数と期限を社内で共有し、出荷優先順位を決めておくことで、値引き販売や廃棄の発生を最小限にできます。
- 卸専用SKUを用意して、ギフト向けセットなどはB2B用に別管理
- 受注締め時間を決めて、当日出荷・翌日出荷を明確化
- 在庫アラートを設定し、特定の得意先向けの欠品を事前に防止
- 賞味期限ルール(残日数〇日未満は出荷不可 など)を倉庫と共有
受注から出荷までの流れは、できるだけ「パターン化」して例外対応を減らすと、現場が安定します。たとえば、Shopifyで受けたB2B注文をCSVで一括ダウンロードし、倉庫に渡すフォーマットを固定しておくと、伝票ミスが減り、出荷リードタイムも読みやすくなります。下記のようなシンプルな運用テーブルを作って、社内と物流パートナーで共通認識を持つと、商談時にもリードタイムやロットの説明がしやすくなります。
| ステータス | 標準リードタイム | 運用のポイント |
|---|---|---|
| 受注確定 | 当日12:00締め | 以降は翌営業日扱いと明記 |
| ピッキング | 4時間以内 | ケース単位とバラ出荷を区別 |
| 出荷完了 | 翌営業日まで | クール・常温で便を分ける |
また、物流コストと現場負荷を抑えるために、「どの注文をまとめて処理するか」のルールもあらかじめ決めておきます。たとえば、発注頻度の高い小売店には定期発注サイクルを提案し、ピッキングや梱包作業のピークを平準化します。さらに、よくある問い合わせ(納品書形式、ラベル表記、賞味期限残日数の希望など)はテンプレート化してShopifyのメモ欄で受け付けるようにすると、メールの行き違いを減らしながら、現場は以下のような条件ごとに作業を分けて進められます。
- ラベル貼付が必要な得意先はまとめて同一時間帯に処理
- 混載禁止商品(アレルゲン・匂い移りなど)は専用ラインで梱包
- パレット単位出荷と小口出荷を分けて積み込みを管理
既存D2CサイトとB2Bストアを両立させるための運営体制と社内連携
D2Cと卸売りを同時に進める際に最初の壁になるのが、「誰が何を担当するのか」を明確にすることです。特に、受注フローや在庫引当のルールをD2CとB2Bで曖昧にしてしまうと、在庫不足や出荷ミスにつながります。私たちのケースでは、まずチャネルごとの責任範囲を定義しました。例えば、D2Cサイトの運営はマーケティングチーム、B2Bストアは営業とバックオフィスの共同管理とし、それぞれがShopify管理画面で見るべきレポートやダッシュボードを分けました。さらに、両チャネル共通で扱う在庫・商品情報は、週次の定例ミーティングで更新状況を確認し、「どの情報がマスタなのか」を全員が共有するようにしています。
具体的な役割分担のイメージは、以下のような形が分かりやすいでしょう。
| 担当 | D2Cサイト | B2Bストア |
|---|---|---|
| マーケティング | キャンペーン設定 商品ページ改善 |
卸先向け資料作成 価格訴求の整理 |
| 営業 | 顧客ヒアリングの共有 | 取引条件の設定 卸先アカウント管理 |
| バックオフィス | 在庫・出荷管理 | 請求・掛売管理 与信チェック |
| カスタマーサポート | 個人顧客対応 | 法人窓口の一本化 |
運営を安定させるうえで重要なのは、ツールよりも社内連携のルールです。Shopify B2Bを導入した後も、次のようなシンプルな運用ルールを設けるだけで混乱が大きく減ります。
- 社内窓口を一本化:卸先からの質問はすべて営業窓口に集約し、運営チームはShopify上の設定に専念できるようにする。
- 在庫と価格は事前合意:新商品リリース時は、D2CとB2Bの販売開始日・販売数量・価格レンジを事前にドキュメント化して共有する。
- 週次でチャネル横断の振り返り:D2CとB2Bの売上推移・在庫状況・問い合わせ内容を1枚のシートにまとめ、部門横断で確認する。
- 権限管理を分ける:Shopifyの権限設定で、価格や支払条件を編集できるメンバーを限定し、誤操作を防止する。
導入後の成果指標の振り返りと今後の販路拡大に向けた改善ステップ
Shopify B2Bを導入してからの3か月間で、まず注目したのは「卸売り売上比率」「1社あたりの平均発注額」「リピート発注率」の3つでした。D2C中心だった時期と比較すると、全体売上は大きく伸びていないものの、取引先1社ごとの売上が安定的に積み上がる構造に変わってきたことが確認できました。また、卸用価格表と最低発注数量を明確にしたことで、業務用の大口注文が増え、少量・高頻度の細かい受注処理が減少し、オペレーション負荷も軽減されています。
| 指標 | 導入前 | 導入3か月後 |
|---|---|---|
| 卸売り売上比率 | 5% | 28% |
| 1社あたり平均発注額 | ¥30,000 | ¥75,000 |
| リピート発注率 | 18% | 42% |
これらの数値をもとに、今後の販路拡大に向けて運用フローの標準化と顧客セグメント別の対応を重点的に進めることにしました。具体的には、次のような改善ステップを段階的に実行しています。
- 商品構成の見直し:小売店舗向けと飲食店向けで、専用のセット商品とケース単位のSKUを用意し、B2Bカタログを分けて管理。
- 価格ルールの整理:発注ロットごとにディスカウント率を固定し、営業担当者ごとの個別調整を減らして、見積もり対応時間を削減。
- 発注しやすさの改善:よく使う組み合わせを「定番セット」として保存し、取引先がマイページから繰り返し発注できるようガイド文言を追加。
- 在庫と出荷の連携:卸専用在庫枠をShopify上でタグ管理し、D2CとB2Bで在庫取り合いにならないよう運用ルールをドキュメント化。
さらに、今後の拡大フェーズでは、数値指標と現場の感覚を両方踏まえて、チャネルごとの優先度を見直していく予定です。そのために、月次でチャネル別の粗利と出荷1件あたりの工数を簡易的に集計し、「取引先分類 × 粗利 × 工数」のバランスを可視化します。これにより、担当者は次のような判断がしやすくなります。
- 粗利が低く工数の高い取引先には、ミニマムロットや出荷頻度の条件を再交渉する
- 粗利・効率ともに高い取引先には、新商品の先行案内や専用キャンペーンを優先的に実施する
- テスト的に開拓したチャネルは、3〜6か月の指標推移を見て継続か撤退かを判断する
Final Thoughts
本記事では、D2Cから卸売りへと販路を広げる際に、Shopify B2Bを活用した食品ブランドの事例を通して、その具体的な進め方とポイントを整理しました。
D2Cで培った「お客様との距離の近さ」や「ブランドの世界観」は、卸売りに踏み出したあとも大きな強みになります。一方で、価格設定、取引条件の整理、在庫・受注管理の体制づくりなど、B2B特有の検討事項も少なくありません。
Shopify B2Bは、こうしたB2B特有の要件を、既存のShopify運営体制の延長線上で対応しやすい点が特徴です。新しいシステムを一から導入するのではなく、「今あるオンラインストアをどう発展させるか」という発想で検討できるため、現場の負担を抑えつつ、段階的なチャレンジがしやすくなります。
これから卸売りを検討される場合は、いきなり大規模な展開を目指すのではなく、
– まずは小規模な取引先から始めて運用フローを固める
– B2B専用の価格ルールや支払い条件を整理する
– 既存のD2Cデータ(売れ筋商品、リピート率など)を、卸先への提案にも活かす
といったステップで、一歩ずつ進めていくことが現実的です。
自社のブランドらしさを維持しながら販路を広げるために、Shopify B2Bという選択肢がどのように活用できるか、今回の事例が検討の材料としてお役に立てば幸いです。

