複数の倉庫や店舗、委託先などで在庫を管理していると、「どこに、いくつ、何があるのか」を正確に把握することが難しくなります。在庫数のずれや欠品、過剰在庫、出荷ミスが起きやすくなり、結果として販売機会の損失やコスト増につながりかねません。
こうした課題に対応する考え方が「マルチロケーション在庫管理」です。マルチロケーション在庫管理とは、複数の拠点に分散している在庫を、一元的に見える化しながら、それぞれの拠点の役割や特性に合わせて最適に配置・運用していくことを指します。
本ガイドでは、特にshopifyを利用している、あるいはこれから利用を検討している非エンジニアの担当者の方を対象に、マルチロケーション在庫管理の基本的な考え方から、実際の設定・運用のポイントまでを整理して紹介します。専門用語や技術的な説明はできるだけかみ砕き、日々の店舗運営や受発注業務にそのまま活かせる実務的な視点を重視しています。
「複数拠点の在庫をもっと正確に把握したい」「ECと実店舗の在庫をうまく連携させたい」「外部倉庫やドロップシッピング先との在庫管理をスムーズにしたい」といった課題をお持ちの方は、自社の運用に合わせてどのようにマルチロケーション在庫管理を取り入れていけるかを検討する際の参考にしてください。
目次
- マルチロケーション在庫管理の基本と小売ビジネスにもたらすメリット
- Shopifyで複数拠点在庫を設定する前に整理しておきたい業務フロー
- 倉庫 店舗 ECの在庫を一元管理するための実務的なルール設計
- 在庫引当と優先ロケーションの考え方と具体的な設定例
- 在庫差異を減らすための棚卸し手順と日次のチェックポイント
- 越境販売や複数ブランド運営におけるロケーション分けのベストプラクティス
- トラブル発生時の在庫調整とロケーション見直しの進め方
- The Conclusion
マルチロケーション在庫管理の基本と小売ビジネスにもたらすメリット
複数の店舗や倉庫、ポップアップストア、さらには委託販売先までを含めて在庫を一元的に把握する仕組みが、いわゆるマルチロケーションの在庫管理です。ポイントは、どのロケーションにどの商品が「何個あるか」だけでなく、「どこから出荷・受け取りを行うか」までをセットでコントロールできるようにすることです。Shopifyの場合、管理画面上でロケーションごとの在庫数を登録し、オンライン注文の出荷元や店舗受け取りの引き渡し場所を明確に分けることで、現場オペレーションとシステム上の在庫を揃えていきます。
適切に運用できるようになると、小売ビジネスには次のようなメリットが生まれます。
- 欠品リスクの低減:ロケーション単位で在庫状況を把握できるため、特定店舗だけ在庫切れになる状況を早期に発見できます。
- 在庫回転率の改善:売れ残りがちな店舗の在庫を、需要の高いロケーションへ計画的に移動しやすくなります。
- 配送コストの最適化:顧客住所に近いロケーションから出荷する設定により、送料や配送日数を抑えやすくなります。
- オムニチャネル施策の基盤:「オンラインで注文→店舗受け取り」や「店舗在庫のオンライン販売」などの施策を現実的な運用レベルで実現できます。
| 観点 | 単一ロケーション管理 | マルチロケーション管理 |
|---|---|---|
| 在庫の見え方 | 倉庫単位のみで把握 | 店舗・倉庫ごとに数量を可視化 |
| 配送オプション | 限られた出荷元からのみ | 最適なロケーションから柔軟に出荷 |
| 店舗販売との連携 | オンラインと店舗が分断 | 同一システム上で情報共有が可能 |
| 運用の難易度 | 設定は簡単だが機能は限定的 | 設定項目は増えるが運用の自由度が高い |
Shopifyで複数拠点在庫を設定する前に整理しておきたい業務フロー
まず整理したいのは、「どこで在庫を持ち、どのチャネルから、どのような優先順位で出荷するか」という全体像です。紙やスプレッドシートでも構わないので、現状の業務を具体的に書き出します。例えば、店舗受取・自社EC・モール・卸など、それぞれの注文が入ったときに、どの拠点から引き当てるのかを明確にしておくと、後から在庫差異が起きにくくなります。また、今すでに存在している「暗黙のルール」(店頭優先・オンライン優先など)も、ここで言語化しておくことが重要です。
次に、受注〜出荷〜返品までの一連の流れの中で、「どのタイミングで、誰が在庫数を動かすか」を工程別に切り分けます。特に、以下のようなポイントで関係者を明確にしておくと、Shopify上のロケーション設計がスムーズになります。
- オンライン受注時: どの拠点在庫を引き当てるかを決める担当
- 店舗販売時: 店舗スタッフが在庫調整するルールの有無
- 入庫・棚卸: 物流倉庫/店舗で数量を確定する担当と頻度
- 返品・キャンセル: どの拠点に戻すのか、別拠点に振り替えるのか
| 業務フェーズ | 主な担当 | 在庫の動き |
|---|---|---|
| 受注 | EC担当 | 仮引き当て・ロケーション決定 |
| ピッキング〜出荷 | 倉庫スタッフ | 在庫減少・ステータス確定 |
| 店舗販売 | 店舗スタッフ | 店頭在庫減少・売上登録 |
| 返品・交換 | カスタマーサポート | 在庫戻し・別拠点への振替判断 |
最後に、複数拠点を使うことで増える「例外対応」のパターンも、あらかじめ洗い出しておきます。例えば、本店に在庫がないが倉庫にはある場合、店舗にだけ残っているサイズをオンラインで販売したい場合など、現場で頻繁に起こりがちなケースを整理し、「原則ルール」と「例外ルール」を分けてルール化します。これらを明文化したうえで、Shopifyのロケーション設定・在庫優先順位・フルフィルメント方法に落とし込むことで、実際のオペレーションとシステム設定のズレを最小限に抑えることができます。
倉庫 店舗 ECの在庫を一元管理するための実務的なルール設計
まず前提として、「どの在庫を、誰が、いつのタイミングで正とみなすか」を決める必要があります。おすすめは、Shopifyの在庫数を常に最終的な基準とし、倉庫・店舗・EC同士の差異はすべて「Shopifyに合わせにいく」設計にすることです。そのうえで、在庫変動の原因を大きく分けておきます。例えば、販売・入荷・棚卸し・移動・破損/廃棄といった5つのイベントごとに、「どの画面で、誰が、どのように記録するか」をルール化しておくと、現場で迷いが減ります。
- 販売:オンライン注文はShopifyに自動反映、店舗販売はPOS経由で必ず販売登録
- 入荷:倉庫・店舗ともに「入荷担当」がShopifyで在庫増加処理を行う
- 棚卸し:月次もしくは週次でロケーションごとに実棚数を入力し、差異はコメントを残す
- 移動:倉庫→店舗などの移動は、出庫と入庫を同日中に記録する
- 破損/廃棄:理由を選択式で入力し、誰が処理したかをメモに残す
| イベント | 主な担当 | 操作タイミング | 記録ルール |
|---|---|---|---|
| オンライン販売 | EC担当 | 注文発生時 | 自動反映を前提に、手動修正はしない |
| 店舗販売 | 店舗スタッフ | 会計時 | 必ずPOS経由で販売し、現金売上の「抜け」を防ぐ |
| 入荷 | 倉庫担当 | 検品完了直後 | 検品数=Shopify登録数とする。差異はメモ必須 |
| 移動 | 倉庫/店舗責任者 | 出荷・受取当日 | 「出庫ロケーション」と「入庫ロケーション」を必ずセットで更新 |
| 棚卸し | 各拠点責任者 | 月1回 | 差異が大きいSKUは、その場で原因を確認 |
また、ルール設計では「どこまでを許容するか」の線引きも重要です。在庫数を100%正確に保とうとしすぎると、現場の負担が増え運用が崩れやすくなるため、SKUやロケーションごとに管理レベルを分けると運用しやすくなります。例えば、回転の速い主力商品だけは毎週棚卸しし、それ以外は月次で確認する、店舗在庫は多少のブレを許容するが、倉庫在庫は必ずシステム値と合わせる、などです。実務では次のように、商品特性に合わせたルール分けをしておくと、倉庫・店舗・ECが同じ前提で動きやすくなります。
| SKUタイプ | 在庫精度の目標 | 棚卸し頻度 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 主力商品 | ほぼ誤差なし | 週1回 | 欠品防止を最優先 |
| 定番商品 | 小さな誤差を許容 | 月1回 | 棚卸し時にまとめて調整 |
| 低回転商品 | ざっくり管理 | 四半期ごと | 動きがあった時のみ随時確認 |
在庫引当と優先ロケーションの考え方と具体的な設定例
Shopifyで複数ロケーションを運用する場合、「どの倉庫から在庫を引き当てるか」のルールを明確にしておくことが重要です。基本的には、販売チャネルごとに優先ロケーションの順番を決めておき、注文が入るたびにその順番に従って在庫を引き当てます。ここでのポイントは、システム任せにせず、自社のオペレーション方針(送料・リードタイム・出荷能力など)を反映させた順序になっているかを定期的に見直すことです。たとえば、ECはフルフィルメント倉庫を最優先、店舗受け取りは対象店舗を最優先といった切り分けを行います。
- 配送コスト重視:お客様に近いロケーションを優先
- 出荷スピード重視:ピッキングが早い倉庫・委託倉庫を優先
- 店舗在庫保護:実店舗は「最後の引き当て」にして欠品販売を防ぐ
- キャンペーン時:特定ロケーションを一時的に最優先に設定
| シナリオ | おすすめ優先順 | 設定のポイント |
|---|---|---|
| 通常のEC配送 | フルフィル倉庫 → 本社倉庫 → 店舗 | 店舗在庫は最後にして店頭欠品を防ぐ |
| 店舗受け取り | 該当店舗 → 近隣店舗 → 倉庫 | 店舗間振替が多い場合は近隣店舗も候補に |
| セール在庫優先消化 | アウトレット倉庫 → 通常倉庫 → 店舗 | セール在庫ロケーションを一時的に最優先に変更 |
具体的な設定としては、Shopify管理画面でロケーションごとの優先順を調整しつつ、必要に応じて「オンライン注文には在庫を使わない」ロケーションを作る運用も有効です。例えば、店舗ロケーションをオンライン引当の対象外にして、店頭販売専用在庫として守る方法です。また、定期的に次の点を確認すると運用が安定します。
- 売れ筋商品のみ、店舗在庫をオンライン引当の対象から外すかどうか
- シーズン切り替え時に、優先ロケーションを一括で入れ替えるタイミング
- ロケーション間の在庫移動が多すぎないか(移動コストとリードタイムの確認)
在庫差異を減らすための棚卸し手順と日次のチェックポイント
在庫差異を抑えるには、「いつ・どこで・誰が」在庫を確認したかを明確にし、店舗・倉庫・委託先などロケーションごとに共通ルールを持たせることが重要です。棚卸しでは、まずShopify上の在庫数を固定し、その時点の数値と実在庫を照合します。その際、SKUラベルの読み取り → 実数カウント → 差異のメモ → 原因仮説のメモというシンプルな流れに統一すると、現場の負担を増やさずに精度を保てます。特に売れ筋SKUは、棚卸し時に「破損品・返品待ち・未検品」の3つに分けて置き場を明確にしておくと、後から差異の原因分析がしやすくなります。
- ロケーション別の棚卸し責任者を決め、変更時はShopifyのスタッフ権限も同時に見直す
- 棚卸し期間中は入出庫を一時停止し、オンライン注文は「あとで引き当て」ルールにする
- SKU別の置き場マップ(棚番号・箱番号)を印刷し、紙と画面の両方で確認できるようにする
- 差異許容範囲(例:数量±1個、または金額ベース1%以内)を事前に決めておく
| 日次チェック項目 | 担当ロール | 目的 |
|---|---|---|
| 前日の注文と在庫移動の確認 | 店舗責任者 | 不自然なマイナス在庫を早期発見 |
| 入荷済みだが未登録の箱がないか確認 | 倉庫担当 | 在庫の「あるのに売れない」状態を防止 |
| 返品・破損品の仮置きエリアの点検 | CS担当 | 販売可能在庫と区別し差異を防ぐ |
| 売れ筋SKUから1〜3点を抜き取りカウント | 店舗/倉庫担当 | 日次のミニ棚卸しでズレ傾向を把握 |
日次では、すべてのSKUを数える必要はありませんが、「少しずつ・毎日」チェックする仕組みを入れておくと、差異が大きく膨らむ前に気付けます。たとえば、売上上位のSKUだけを日替わりで抜き取り検品し、差異が見つかった場合は「ピッキングミス」「二重登録」「ラベル貼り間違い」といったパターンごとにメモを残します。こうしたメモをロケーション別に蓄積し、月に一度振り返ることで、「特定の倉庫だけピッキングミスが多い」「特定ブランドだけラベル誤貼りが多い」といった傾向が見え、次の棚卸し手順の改善につながります。
越境販売や複数ブランド運営におけるロケーション分けのベストプラクティス
海外向け店舗や別ブランドを同一アカウントで運営する場合は、まず「ロケーション=お客様への約束の仕方」と捉えると整理しやすくなります。国・通貨・言語ごとにストアを分けるか、ひとつのストア内でロケーションと配送条件を切り替えるかは、在庫の分散状況と社内オペレーションの体制で判断します。ポイントは、どのストア・どのブランドからでも「どこから出荷されるか」「どれくらいで届くか」を一貫して説明できる状態を作ることです。
- 国・通貨・言語が大きく異なる場合:ストアを分け、ロケーションを地域倉庫ごとに設定
- 同一国・同一通貨で複数ブランド:ストアを統合し、ロケーションでブランド倉庫を分離
- D2C+卸やB2B併用:販売チャネルごとにロケーション在庫を配分し、引当上限を明確化
| 用途 | おすすめロケーション設計 | 運用ポイント |
|---|---|---|
| 海外直販(US/EUなど) | 地域別フルフィルメント倉庫を個別ロケーションに | 各ロケーションで在庫安全数を設定 |
| 複数ブランド | ブランド別ロケーション+共通ロケーション(返品・検品用) | 誤出荷防止のためSKU命名と棚番をブランド単位で統一 |
| 越境+国内同時運営 | 国内ロケーションと海外ロケーションを明確に分離 | 配送プロファイルで国ごとに利用ロケーションを制御 |
また、複数ブランド・複数ロケーションでは「どの注文をどのロケーションに割り当てるか」をルール化し、チームで共有しておくことが重要です。たとえば、同一SKUを複数ロケーションで共有する場合は、在庫回転の速い倉庫を優先する、国境をまたぐ出荷は関税コストを加味して国内在庫を優先するなど、現実的な基準を明文化します。Shopifyの配送プロファイルや発送元住所を組み合わせれば、海外向けストアでは海外ロケーションのみを選択させ、国内ストアでは国内ロケーションを優先させるといった制御が可能です。運営側では、定期的にロケーションごとの在庫回転と欠品率を確認し、ロケーション構成や在庫配分を見直していくことで、越境販売やブランド横断の在庫管理を安定させられます。
トラブル発生時の在庫調整とロケーション見直しの進め方
出荷遅延や誤出荷、拠点ごとの在庫差異が発覚したときは、原因追及と同時に「どのロケーションで、どの商品を、どの程度動かすか」を素早く決めることが重要です。まずは、Shopify上で在庫差異が大きいSKUや、クレーム・返品が集中している拠点を洗い出し、影響度の高い組み合わせから優先的に対応します。そのうえで、担当者間での認識ズレを防ぐために、調整ルールを簡潔に共有しておくと、現場での判断スピードが上がります。
- 緊急度:出荷に直結するか、顧客クレームが増えているか
- 影響範囲:対象SKUの売上比率、定期購入の有無
- 補充リードタイム:仕入れから入庫までの日数、国内外の違い
- ロケーション特性:返品拠点か、主力の出荷拠点か、B品専用か
在庫を動かすか、ロケーションの役割自体を見直すかを判断する際は、コストだけでなく運営リスクもあわせて比較します。たとえば、常に在庫不足が起きる拠点は「安全在庫を増やす」のか「その拠点で扱うSKUを絞る」のか、選択肢を明確にします。下記のような簡易表を使うと、関係者と共通認識を持ちやすくなります。
| ロケーション | 主な役割 | よく起こるトラブル | 優先アクション |
|---|---|---|---|
| 本社倉庫 | 全体の基幹在庫 | 棚卸差異 | 定期棚卸と権限の整理 |
| 3PL倉庫 | EC出荷メイン | 在庫更新の遅れ | 入出庫データ連携の頻度見直し |
| 実店舗 | 店頭販売 | 売り越し | 安全在庫の設定とモバイル在庫確認 |
ロケーションの見直しを進める際は、一度に大きく変えるよりも、小さな単位でテストしながら調整するほうが現場への負担を抑えられます。たとえば、先に特定ブランドだけ別拠点に集約してみる、予約販売商品は専用ロケーションで管理してみるなど、限定的な変更から始め、ShopifyのレポートやCS対応件数の推移を確認しつつ、効果があれば対象SKUや拠点を拡大します。この「段階的な見直し」と「定期的な振り返り」をセットにすることで、トラブル発生時にもブレにくい在庫配置ルールを育てていくことができます。
The Conclusion
本記事では、マルチロケーション在庫管理の基本的な考え方から、具体的な運用のポイント、Shopifyで設定・活用する際の注意点までを整理してきました。
複数拠点で在庫を管理することは、出荷スピードの向上や欠品リスクの軽減など、多くのメリットがある一方で、「どこに、どれだけ、何を置くのか」を継続的に見直す必要があります。
すべてを一度に完璧にしようとするのではなく、以下のように段階的に取り組むと負担が軽くなります。
– まずは現在の在庫拠点・在庫数・出荷ルールを見える化する
– 優先度の高い拠点(本社倉庫・主要店舗など)から運用を整える
– 実際の受注・在庫データをもとに、ロケーション配分やルールを定期的に見直す
マルチロケーション在庫管理は、一度設定して終わりではなく、店舗の成長や販売チャネルの変化に応じて改善していく「長期的な運用プロセス」です。日々の業務の中で違和感やムダを感じた点をメモし、定期的に運用フローを振り返ることで、徐々に自社に合った形が見えてきます。
本ガイドが、自店舗の在庫管理を見直すきっかけとなり、今後の運営判断の参考になれば幸いです。

